「あれだ・・・見付けたぜ!」
フサームは少し離れた場所からバビロニア兵の野営を眺めていた。空を見上げれば丁度雲が
月を隠し初めている、辺り一面が闇に包まれ野営の灯火がゆらゆらと風に揺れていた。
「風や雲は俺達の味方をしてるんじゃねぇか?」

アフザルはそう言うと剣をそっと抜く
「これは失敗出来ない・・・もし俺達の誰かが兵士に捕らわれようとも助けるな、残った奴がアイシス様を連れ逃げる、良いな、それとトゥファン、お前は天幕から少し離れた所で待機しろ」
フサームはそう言うと立ち上がった、
「え?」
「お前のその右手じゃ戦えねぇ、それに俺達はけが人を構うほど余裕が無いんだ、解ったな?」
続いてアフザルが立ち上がると後に続くように仲間達が立ち上がり剣を抜く
「よし!長、準備はできてるぜ・・・ってどこから侵入するんだ?」
「…解らない、とにかく女達の声がする天幕を探せ」
「・・・了解」
その後、口を開く者は居なかった、不気味に風の音が辺り一面に響き渡る、吹きあげる砂に一瞬目を瞑る、そんな中、目的の陣営が目の前に現れた。見張り番の傍を灯火が闇を照らす、
彼らに比べ闇夜が慣れているフサーム達は見つかる事なく天幕の傍まで辿りつく事が出来た
「あの時見たいだな・・長」
「・・・」
あの時・・・・身重だったアイシスを連れ出したあの時を思い出す、一瞬立ち止まるがその後ろから仲間達が周りの天幕を調べ始めた、
そっと天幕に耳を近づけ中に居る人の様子を伺うとアフザルは首を横に振った、手で左へと合図し天幕に近づいては耳を当て中の様子を伺って行った。
やがて衛兵が立つ天幕の傍までいくと、仲間の一人は背後から音も無く近づき背を突き刺した、衛兵は声を出す事も無いままそのまま崩れ落ちる
「ここは何だ?」
アフザルは中を覗くと食糧が山ほど積まれていた。アフザルは合図すると2人の男が背に持っていた羊の皮袋を下し手際良く食糧を積み始めた。
「食糧が近いと言う事は女達があの天幕の何処かに居るはずだ・・」
フサームはそう言うと直ぐ傍の天幕の様子を伺うと2つ目に女達の声が中から聞こえたがすぐ傍には見張りの兵士が立っていた、素早く短刀を抜くと再び背後から襲う、
侍女達が居る天幕の前で見張りをしていた男が突然無言で倒れ込んで来た。侍女達はその男の様子に驚き叫ぶ、その入り口の厚い布地が斜めに切り裂かれ垂れ下がるとベールを深く被った男が入り辺りを見回す、突然の男の侵入に女達は隅の方へ集まり怯えていた。
「ここには居ねぇ・・・」
中を見回しながらアフザルは舌うちをする
「おい、お前らの中で肩まで黒髪の女は何処へ行ったか知っている奴は居るか!?」
アフザルの声に怯え女達は誰一人として視線を合わそうとはしなかった。
「・・・その子なら逃げ出そうとして何処かの天幕の中へ放りこまれたようだよ」
沈黙を破りイシャイがアフザルの問いに答えた。
その言葉を天幕の外で聞いていたフサーム達は焦り初めていた、これ以上天幕を探しまわるのは自分達の身も危険に冒される事になる、
「何処かの天幕って・・・正確な場所は知らねぇのか?」
再度イシャイに聞くが首を横に振るだけだった
「盗賊が現れたわっ!兵隊さん!助けて!!」
突然一人の女が裏側から出たと思えば叫ぶ、その声に驚きアフザル達は慌て天幕から離れた。背後から暗闇の中複数の兵士の砂を踏みしめる足音が聞こえて来る
「剣を抜け!ここは一気に潰す!」
僅かな明かりを頼りにフサーム達は兵士の中へと斬り込んで行った。